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達人のひとりごと(JKLab)

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真空管アンプの選び方

■■■ 真空管アンプの選び方 ■■■

 真空管アンプが欲しいのだが、どんな真空管アンプを選んだらよいかわからないので教えて欲しい、というメールを時々いただく。そこで、真空管アンプ選びの基本について述べようと思う。

1.アンプの形式
 まずアンプの形式として、入力切り替えや音量調節のついたインテグレーテッドアンプと、あまりいじるところのないパワーアンプがある。パワーアンプの場合はさらにプリアンプがないと不便な場合もあるので、自分の使い方を考えて必要な機能が組み込まれているものを選ぶと良い。

SOUND WORRIOR 真空管アンプ SW-T10(ナチュラル)
(出力1.6Wのシングルアンプ、機能は豊富)

 次に回路方式として、シングルアンプとプッシュプル(PP)アンプがある。シングルは出力管が左右1本ずつだが、プッシュプルは左右2本ずつ使う。プッシュプルの場合、出力がシングルの2倍以上出るので、大きな出力を得るには良い方式である。雑音も小さく、周波数帯域も広い。では、シングルには何か良い点があるのだろうか。シングルアンプの特徴は音色の美しさにある。良くできたシングルアンプを適切な音量で鳴らすと、アンプから発生する倍音がのって艶のある美しい音になることがある。そのためにはスピーカーの能率と、自分の普段聴く音量に合った出力のアンプを選ばなければならないが、この点についてはまた改めて書きたいと思う。

Tri(トライオード)TRV-35SE【AB級真空管プリメインアンプ】
(出力45Wのプッシュプルアンプ、機能も十分)


2.アンプの出力
 前にシングルアンプでは、適切な出力のものを選ばなければならないと述べた。ちょうど音色の良い領域で鳴らすには、出力が大きすぎても小さすぎてもよくないのだ。  スピーカーから出てくる音の大きさは、アンプの出力とスピーカーの能率(出力音圧レベルという)で決まる。スピーカーのカタログを見てみると、この出力音圧レベルは機種によって大きく異なる。例えば、ハーベスHL Compact7は86dBなのに対して、JBL4338は93dBである。この数字は、スピーカーに1Wの入力を入れたとき、1mの地点での音の大きさ(音圧という)を表している。dB表示では、3dBの違いは2倍、7dBは5倍、10dBは10倍の差に相当する。7dBの差であるから、同じ大きさの音を出すにはハーベスの方が5倍の出力のアンプを必要とする。一般に小型スピーカーの方が能率が悪いので、大きな出力を必要とすることが多い。

 何Wの出力のアンプが必要かは、普段どれくらいの音量で聴くかによる。大ざっぱに言って、小音量派の人は90dB位、普通の音量の人は100dB位の音圧を目指せばよいと思う。(普段聴く音圧)-(スピーカーの出力音圧レベル)を計算して、アンプの出力が何W必要かを求めると良い。例えば、普通の音量の人が出力音圧レベル90dBのスピーカーを使う場合は、1Wを基準にして100dB-90dB=10dB分の出力をアンプから供給する必要があるので、1Wの10倍で出力10Wのが適切である。


3.真空管の種類
 次に真空管の種類について述べようと思う。真空管アンプは、やはり真空管の美しさ、特に出力管のデザインが大きな魅力になっている。スイッチを入れるとヒーターがほんのり明るくなって暖かみを醸し出してくれる。もっとも夏場は暑くてしょうがないのだが…。

 歴史的に言うと、1930年代まではST管が主流だった。この時代の代表的な出力管は2A3, 300Bなどである。ST管は優美な曲線状の外観を持ち、足のピンの数も少ない。古典球と言われ、扱いにくいのでマニア向けのシングルアンプなどに使われる。価格は高いものがほとんどである。

 1930年代後半から1940年代にはGT管が多数開発された。出力管は8本足のものが多く、効率も良くなっている。がっしりした外観で、その姿からは近代的な印象を受ける。このタイプはいろいろあるが、6CA7(EL34), KT88, 6L6GC, 6V6などがよく使われている。最も入手しやすくポピュラーなタイプである。

 1940年代終わり頃から、小型のMT管が開発されるようになった。出力管としては小ぶりで、あまり大きな出力は取れないが、可愛らしいアンプを作るには最適である。このタイプでは、6BQ5, 6BM8などが有名である。最も価格の安いタイプである。  ここにあげた型番の真空管は現在でも簡単に入手できるものばかりだ。アメリカには膨大なストックがあり、ロシアや中国では現在でも大量生産している。余談であるが、真空管最盛期には日本独自の出力管もたくさんあった。しかし日本では1970年までに全ての真空管メーカーは撤退し、かくして日本製真空管は幻の球として高値が付けられるようになってしまったのである。


4.3極管と多極管
 さて、真空管には3極管と多極管がある。歴史的には3極管が最も古く、そこから4極管、5極管、ビーム管(この3つを総称して多極管とも言う)と進歩していったのだ。出力管としては、後で開発されたものほど効率がよい。ではビーム管が最高かというとそうでもないところがオーディオの面白いところである。効率がよいということならば、その後に開発されたトランジスターの方が上であるから、効率の良さばかり求めては真空管の良さを自己否定してしまうことになるのである。
Triode TRV-A300 真空管(300Bシングル)ステレオプリメインアンプ
 代表的な3極管は、300B, 2A3などの古典球に加え、多極管を3極管接続する場合も多い。当然効率は下がるわけだが、それを上回るメリットがあると考えられている。具体的には、内部抵抗が低い、負荷抵抗の変化に強い、歪みが低次高調波中心である、などのメリットがあり、シングルアンプにしたときの音色は格別である。
Triode TRV-34SE 500台限定生産モデル プリメインアンプ
 4極管は使われないが、5極管としては、6CA7, 6BQ5 などが有名である。効率よりも音質重視と言うことで、メーカーのアンプにはよく使われている。例えばマランツでは全てのパワーアンプに6CA7を使っていた。
真空管プリメインアンプAUDIO SPACE AS-6i(KT88)
 ビーム管としては、6L6GC, 6550, KT88 など大出力管が多い。効率を重視した設計であるが、回路次第で良いアンプが作れる。例えば、マッキントッシュの真空管アンプはKT88, 6L6GCといったビーム管を特殊な出力トランスと組み合わせて大出力かつ高性能を得ている。
 それぞれのタイプの真空管の個性を生かしたアンプを選びたいものだ。このようないわゆる銘球ばかりでなく、あまり知られていない駄球(?)を愛する人もいる。球の型番を聞いただけでピンと来るようだと、真空管屋の店先に並んでいる球の中から掘り出し物を見つけることも可能であろう。



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